
機能訓練指導員
介護福祉施設などで勤務する「機能訓練指導員」の資格要件に、平成30年から鍼灸師(はり師・きゅう師)が追加されました。
これにより、鍼灸師の活躍の場が広がります。
機能訓練指導員の仕事内容、及びその将来性は以下のようなものです。
■機能訓練指導員とは
「機能訓練指導員」とは、介護施設などにおいて、要介護者が日常生活運動を自立して行なえるよう、運動の指導や健康管理業務を行う人を意味します。
厚生労働省は、機能訓練指導員について、以下のいずれかの資格を有する者と規定しています。
・理学療法士
・作業療法士
・言語聴覚士
・看護師
・准看護師
・あん摩マッサージ指圧師
・柔道整復師
・鍼灸師(※平成30年から追加)
上記で分かる通り、「機能訓練指導員」は職種名称であって、「はり師・きゅう師」のように特定の資格を意味するものではありません。
従って、上記8つの資格のいずれかを保有している人で、かつ機能訓練指導の業務に携わっている人が機能訓練指導員である、ということです。
その他の資格を持っていて、機能訓練指導に類似した仕事に携わった実績があるとしても、機能訓練指導員を名乗ることはできません。
特別養護老人ホームや、デイサービスなどの施設には、機能訓練指導員を1人以上配置するように義務付けられています。機能訓練を行った場合、介護報酬上の評価が単位として付与されます。
この、機能訓練指導員の仕事は「リハビリ」と混同されることもありますが、目的が以下の通り異なっています。
<リハビリ>
何らかの理由で損なわれた身体機能の原状回復を目指す
<機能訓練指導>
怪我・病気・老齢などで生じた障害に対し、日常生活動作を行うための身体機能改善を目指す
ちなみに、機能訓練指導の現場では「ADL」という言葉がしばしば使われますが、これは「Activities of Daily Living」の略で、「日常生活動作」を意味します。
■機能訓練指導員になるための条件
鍼灸師が資格対象に追加された背景には、昨今問題となっている介護業界での人材不足があります。
また、鍼灸師の資格を持つ人が、機能訓練指導に類似する業務に携わっている事例がすでにある、という現実面も影響しているようです。
ただし、鍼灸師を対象資格に加えるにあたって、単に従来の資格要件に追加されるだけではなく、当面は下記のような条件が付加されます。
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護職員、柔道整復師又はあん摩マッサージ指圧師の資格を有する機能訓練指導員を配置した事業所で6月以上勤務し、機能訓練指導に従事した経験を有すること
上記の条件をクリアすれば、鍼灸師の資格を持つ人が介護業界などでさらに活躍の場を広げることができるようになります。
■機能訓練指導員の仕事内容
機能訓練指導員の業務内容は、筋力低下の予防などを目的とした運動の指導・管理が主となっているため、鍼灸師が施術所などで一般的に行っている施術とは内容が異なります。
しかし、人の身体のしくみを学んできた鍼灸師にとって、特別養護老人ホームやデイサービスなどの施設での機能訓練は、自らが持つ知識や技術、経験を活かして働くことができる場でもあります。
機能訓練指導員の具体的な仕事内容は、主に以下のようなものです。
・筋力トレーニング、生活運動の訓練、マッサージ
・個人の訓練プログラム作成
・集団訓練やレクリエーションのメニュー作成
・バイタルチェック(呼吸、心拍、体温、血圧などの確認)
・訓練結果の観察、評価
・介護用機器の選択と使用アドバイス
・利用者の送迎
・ほか施設内の諸業務
(※実際の職務内容は各施設によって異なります)
諸業務の内容は、勤務する施設の方針によって、事務作業や職員のサポート業務、施設内のイベント運営、その他雑務など様々です。
参考までに、通所施設に対して行われた調査の結果では、機能訓練指導員の中で3分の2にあたる人が他の業務と兼務している状況だという結果が出ています。
■機能訓練指導員の収入
機能訓練指導員の収入は、厚生労働省の調査によると以下のような数値になっています。
正規職員の機能訓練指導員の平均基本給・・・228,700円
正規職員の機能訓練指導員の平均給与額・・・343,890円
非正規職員(パートタイマーなど)の平均時給・・・1,540円
非正規職員(パートタイマーなど)の平均給与額・・・76,860円
これらの金額はあくまでも平均値であり、勤務先が医療施設なのか企業系施設なのかといった点や、自身が保有している資格、勤務先の方針、介護福祉業界でのキャリアなどによって金額は異なってきます。
また、鍼灸師の場合はまだ制度が変わったばかりなので事例が無く、実際の額は不明です。
■機能訓練指導員の仕事の魅力
機能訓練指導員の仕事は、利用者と長時間接しながら、コミュニケーションを深めつつ訓練を重ねていくという、人とかかわる密度が非常に深い仕事です。
日々の訓練を重ねていく中で、どのような成果に結びついたかを感じた時に大きな充実感が得られる、という点でも魅力のある仕事です。
また、利用者だけでなく家族ともコミュニケーションをとる必要があるため、人とのふれあいの中で仕事ができ、かつ感謝される機会も多くあります。
実務上のメリットとしては、基本的に夜勤がなく、平日のみの勤務が多いため、プライベートの時間も確保できるという点があります。
それに加え、正規職員だけでなくパートスタッフの求人も多く、働ける時間が限られている人にも、比較的就業しやすい仕事だと言えます。
その他、ケアマネージャーや介護スタッフ、看護師、管理栄養士など様々な職種の人との連携が生じるため、学びの機会が多い点もこの仕事ならではのメリットだと言えます。
■今後の展望
職種としての歴史はまだ浅い機能訓練指導員ですが、社会の高齢化などによってニーズは高まっており、機能訓練指導員の数自体も徐々に増えています。
参考までに、本サイトにおいて「機能訓練」というキーワードで検索すると、約1,300件の求人情報がヒットします(平成30年6月1日現在)。
また、機能訓練指導員は、5年(900日以上)の勤務経験を積むことによって、ケアマネージャーの資格を取得するための要件を獲得できます。
ケアマネージャーの資格は難関といわれていますが、取得した場合にはさらに専門的な業務ができるようになり、介護業界でより有用な人材になることができるのはもちろん、自分自身のキャリアアップ、収入アップにもつながります。
ちなみに、平成28年時点の調査では、機能訓練指導員として働いている人が有する資格は、以下のような内訳です。
看護職員・・・65.6%
理学療法士・・・11.5%
柔道整復師・・・10.7%
作業療法士・・・6.1%
あん摩マッサージ指圧師・・・4.4%
言語聴覚士・・・0.5%
(※他は無回答)
今後は、上記の中に鍼灸師が加わっていくことになります。
社会の高齢化や、有資格者の増加などに伴って、徐々に人気が高まっていくことが予想される業種だけに、期待も高まります。