
レセプト・保険請求
鍼灸や柔整などの施術業界では、しばしば「保険請求」のことが話題に上ります。
意味を取り違えたり、処理方法を誤ったりすると時に大きな問題になることもあるこの保険請求について、以下記述します。
■保険診療と自費診療
鍼灸院などの施術所の経営は、施術の対価である「療養費」で成り立っています。
この療養費の支払方法は大きく2つに分けられます。
「保険診療」と「自費診療」です。
<保険診療>
鍼灸師の施術については、保険の適用を受けることが認められています。
ただし、全ての施術に保険が適用されるわけではありません。
厚生労働省から通知されている、療養費に関する「留意事項」では、以下のように保険適用範囲が定められています(※一部を抜粋)。
療養費の支給対象となる疾病は、慢性病であって医師による適当な治療手段のないものとされており、主として神経痛・リウマチなどであって類症疾患については、これら疾病と同一範疇と認められる疾病(頸腕症候群・五十肩・腰痛症及び頸椎捻挫後遺症等の慢性的な疼痛を主症とする疾患)に限り支給の対象とされていること。
上記のように、神経痛や、リウマチ、五十肩などといった慢性の病気に対して、医師の同意を受けたものであれば保険治療が可能です(慢性に至らない病気についても可能な場合あり)。
<自費診療>
上記で述べたもの以外は原則として保険が適用されないため(一部例外を除く)、療養費の全額を患者が負担する「自費診療」となります。
自費診療のメニューで代表的なものとしては、リラクゼーションを目的としたもの、予防医療としての側面を持つもの、美容鍼灸など審美的なもの、などです。
例えば、リラクゼーションサロンやエステサロンなどでも鍼灸の施術が行われていることがありますが、これらは治療行為に該当しないため、全て保険適用外のものになります。
自費診療については、施術内容も金額も自由に設定でき、レセプト業務なども発生しないため、人的コストを抑えられる、入金が遅れることがない、といったメリットがあります。
しかし自費診療のみでの施術所経営は容易ではなく、充分な事前調査を行った上で、経営計画を入念に立て、完全自費に移行後も独自性を確立する、PR戦略を続けるなどの努力が必要です。
■療養費(保険適用時)の処理方法
保険適用での施術を行った場合、その療養費の処理方法には2種類あります。「償還払い」と「受領委任」です。
<償還払い~患者が保険者に請求>
保険適用の施術を受けた後、患者が施術者に療養費の全額を一旦支払い、その後患者自身が自己負担分を除いた金額を保険者に請求する方法です。
これは「償還払い」と呼ばれるもので、鍼灸を行う施術所の療養費支払は原則としてこの償還払いとなっています。
しかし、保険者への手続きなどが全て患者の手間となってしまい、慢性疾患などの治療を受けている患者にこういった負担を強いるのはあまり現実的ではありません。
そこで、例外的なものとして、平成30年度から鍼灸業界にも導入が認められたのが、「受領委任」という方法です。
<受領委任~施術者が保険者に請求>
上記の償還払いにおける患者の労力を軽減するために、施術者(もしくは代理の団体)が一旦療養費の保険該当分を負担して、患者からは自己負担分のみを受け取り、後に施術者(もしくは代理の団体)から保険者に対して保険該当分を請求する、という方法が鍼灸の施術所でも認められるようになりました。
これが「受領委任」という請求方法です。ちなみにこの受領委任は、以前から柔道整復の施術所(整骨院、接骨院など)ではすでに導入されていました。
この受領委任で発生するのが「レセプト」です。
■「レセプト」とは
「レセプト」は、ドイツ語の「Rezept(レツェプト)=処方箋」が語源の言葉で、施術所においては、保険請求を行う際の「療養費支給申請書」のことを意味します。
ただし、現場では、より広い意味で保険請求の業務全般を「レセプト」あるいは「レセプト業務」と呼ぶこともあります。
病院などの医療機関でも、医療事務の現場で同じ「レセプト(通称・レセ)」という言葉を使いますが、この場合は「診療報酬明細書」を意味し、その内容や処理方法には大きな違いがあります。
施術所において前述の「受領委任」が発生した場合、このレセプトを詳細にわたって記入し、患者の署名を得た上で、保険者に患者の一部負担費を除いた療養費の請求を行います。
なお、このレセプト処理は、受領委任の場合のみ発生するものです。
「償還払い」や、保険の適用外となる「自費診療」の場合は、レセプトに関する業務は発生しません。
■どんなことをするのか?
施術所での保険請求においては、療養費の内容が厚生労働省によって決められており、随時改定されています。
たとえば、「初検料」については、はり・きゅういずれか一方の場合は1,610円、はり・きゅう併用の治療であれば1,660円となっています。
「施術料」は、はり・きゅういずれか一方で1,540円、併用で1,580円、といった具合です(上記いずれも平成30年6月現在)。
ほか、電気鍼などを使用した際の「電療料」、訪問鍼灸の「往療料」、「施術報告書交付料」なども具体的に定められています。
この内容に沿って、施術所では施術管理者が毎月レセプト処理を行い、作成したレセプトを審査会に提出します。
審査会のチェックを経て保険者に請求が届き、保険者のチェックを受けて内容に問題がなければ療養費が院に支払われます。
この過程上で問題が発生した場合、返戻(へんれい)といってレセプトが差し戻されます。
返戻が発生した場合、院の会計に影響が出てしまうため、レセプトの作成時には記載ミスや記入漏れなどが起こらないよう厳重に注意する必要があります。
■レセコン(レセプトコンピューター)
レセプトの作成については、従来は紙媒体(手書き)で行っていましたが、効率化やミスの防止、不正の抑制などの目的で、保険事務の電子化が進められており、国もレセプト処理の電子化を推進しています。
ここで使われるソフトウェアはレセプトコンピューター(通称:レセコン)と呼ばれ、各社から多くのものがリリースされています。
レセコンは、制作しているメーカーによって対応機種や互換性など様々なものがあり、機能面でも領収証・明細書の発行、スキャナでの自動読み取り、マーケティングなどのサービスコンテンツ、サポート体制など、それぞれに個性・特徴があります。
レセコンの導入によって、施術所の現場では、人的工数の削減、事務処理のスピードアップ、ミスの防止などが期待できます。
ただし、導入にかかる経費や、メンテナンス費などのランニングコスト、周辺機器の購入費用などもメーカーによって様々であり、選択を誤った場合の再導入には金額面でも人的負担という面でも大きな無駄が発生します。
院の運営スタイルやスタッフのスキル、経営計画に合わせて、比較検討の上、慎重に選ぶことが必要です。