
整形外科・クリニック
鍼灸師の勤務先として、施術所の他に挙げられる代表的なものに「整形外科」があります。
鍼灸師が整形外科で働く場合の勤務内容、現況などは以下の通りです。
■整形外科での勤務内容
整形外科において鍼灸師は、医師や理学療法士などと連携し、治療やリハビリテーションの現場で活躍します。
その主な業務は、鍼灸の技術と知識を生かしての施術や、様々な患者サポート、その他の雑務といった内容です。
また、デイサービスを併設している整形外科では、通院してくる要介護者に対しての運動指導やリハビリ補助、個人メニューの作成などを行うこともあります。
参考までに、「整形外科病院」「整形外科医院」「整形外科クリニック」という呼称の違いは、病床数の数が基準です。
医療法の第一条によって、病床数20以上の施設は「病院」、19以下の施設は「診療所」とされ、「医院」「クリニック」は後者にあたります。
■そもそも「整形外科」とは?
整形外科は、病院の中では内科、リハビリテーション科に次いで施設数が多い診療科目であり、老若男女問わず利用する機会がある、身近な医療施設です。
診療対象とされている疾患は、運動器に関係するものが主となっており、骨や筋肉をはじめ、関節、軟骨、靭帯、腱、神経などに起きた疾病・外傷を対象にします。つまり、ほとんど全身の部位が治療の対象になるということです。
また、整形外科の中でも専門分野が分かれており、上肢、下肢、脊椎、肩関節、股関節といった部位によるものから、スポーツ医学、骨粗しょう症といったカテゴリーなど多岐にわたります。
整形外科が手掛ける幅広い診療対象の中でも特に多いのが、交通事故やスポーツ傷害に起因する外傷、及び日常生活や仕事中などに発生する骨折、打撲、捻挫、といったものです。
他にも、椎間板ヘルニア、糖尿病、肩こり、ぎっくり腰などの、日常生活で起きる慢性疾患も対象領域に入れられます。
これらの中で、リウマチや五十肩などといった慢性の痛みや不調については鍼灸師の施術対象と重複するため、鍼灸の技術を整形外科で役立たせることが可能となっています。
■「形成外科」との違い
時に整形外科と混同されてしまいがちな診療科目に「形成外科」があります。
両者は名称が非常に似ていますが、治療対象や内容は大きく異なります。
形成外科は、先天的な異常や、後天性の原因(病気やケガなど)によってできた身体の外見上の問題に改善を加える治療を主とする外科です。
治療対象の部位は身体の全体にわたり、やけど、怪我、手術あと、あざなどの治療をはじめ、顔面骨折の治療、腫瘍の切除などにも対応します。
つまり、大まかに言うと整形外科は運動機能の問題を、形成外科は外見上の問題を、それぞれに解決する診療科目であるということになります。
■整形外科勤務の主な特徴
一般的な鍼灸院や施術所では、通常の業務において命に関わる緊急の状況に直面することはほぼ皆無で、重篤な症状に対応することもまれです。
これに対し、整形外科勤務の場合は、救急の患者への対応なども含め、緊急性を要する現場での治療にあたる機会もあります。
また、院によっては、医師や療法士の補助的業務を行うことを通して、鍼灸師としての施術以外の業務を求められることもあります。
将来、自分の施術所開業を目指す鍼灸師にとって、さまざまな症例を経験することはとても重要です。整形外科勤務では多くの症例を診ることができるので、修行の意味も含めて整形外科勤務を選ぶ人もいるようです。
■機能訓練指導員とは
平成30年から、機能訓練指導員として仕事に従事できる要件の中に、鍼灸師が加わりました。
これは鍼灸師の活躍範囲が広がるという面で、大きな意味を持っています。
整形外科などの医療現場では、通常の施術師としての業務とは別に、機能訓練指導員としての業務を担う場合があります。
機能訓練指導員は「日常生活を営むのに必要な機能の減退を防止するための訓練を行う能力を有する者」と定義されています。
主にデイサービス、デイケア、特別養護老人ホームなどの利用者に対し、上記のような機能訓練を指導し、健康維持を実施していく人を意味します。
この「機能訓練指導員」は職種を意味するものであり、特定の資格ではありません。機能訓練指導員になるためには、以下のいずれかの資格を有していることが要件であると規定されています。
・鍼灸師(※平成30年度から追加)
・柔道整復師
・あん摩マッサージ指圧師
・理学療法士
・作業療法士
・言語聴覚士
・看護師
・准看護師
デイケア、デイサービスなどの通所介護施設には、この機能訓練指導員を1名以上配置するように定められており、通所者に対して機能訓練を行った場合、介護報酬が付与されます。付与される単位数は厚生労働省によって基準が定められています。
たとえば通所介護(デイサービス)において、機能訓練指導員が、立つ・座る・歩く、といった身体機能の向上を中心に、計画的な機能訓練を行った場合は、1日につき46単位が加算されます。
整形外科にはこういったデイサービス、デイケアなどが併設されているところもあるため、鍼灸師は機能訓練指導員という肩書きで、高齢者のケアやリハビリサポート、その他の機能訓練にまつわる諸業務を担当することが可能です。
■就業状況
現在の、国内における整形外科の施設数は以下の通りとなっています。
「一般病院」の整形外科・・・・約5千件
「一般診療所」の整形外科・・・約1万3千件
(※いずれも厚生労働省のデータより)
病院と診療所の違いは前述の通りですが、合計でおよそ1万8千件の整形外科施設が存在しています。
これらの中で、鍼灸師の採用を行っている整形外科が、はり師・きゅう師免許を持つ人の就業対象となります。
はり師・きゅう師の免許所持者で、病院や診療所に勤務した人は1割前後という調査結果もあり、この大半は整形外科への就職だと考えられます。
鍼灸師免許を持つ人のおよそ10人に1人が就職する業界である、ということを考えると、進路としてもそれなりの規模を持っているといえます。
■給与・勤務時間
現在の求人状況では、整形外科勤務での鍼灸師への給与は20~25万が相場で、その他に諸手当や、経験によって考慮・加算される部分などで変動しています。
鍼灸院・鍼灸整骨院での求人でも、およその金額は近いラインで推移しているので、両者の相場は、おおむね同程度といって良いでしょう。
勤務時間については、整形外科の場合、診察時間と連動して、9時前後から18時前後までという院が多いようです。
シフト制を組んでいるところや、日曜休診、年中無休の鍼灸院など、院によって勤務時間と曜日は様々です。基本勤務時間帯としては、一般的な施術所よりも整形外科勤務の方が幅は狭いといえます。
ただし、整形外科の場合、院によって当直や残業などが発生することもあるので、就職を希望する場合は自分のライフスタイルと院の勤務スタイルが合致するか、事前の確認が必要です。