
自費診療
マッサージ院などの施術所においては、「保険診療」と「自費診療」のいずれかで患者に対応しています。
近年は自費診療の重要性が注目されており、施術所の経営における今後の鍵になるとも言われています。
自費診療の基礎知識と、将来の展望を把握しておきましょう。
■自費診療の必要性
あん摩マッサージ指圧師、及び鍼灸、柔整も含めた施術業界では、今後保険診療だけで院の経営を続けていくのは困難になっていくという予想もあります。
その理由としては、療養費に関する規制が年々厳しくなってきていることや、他業種との競合、施術所の増加、などが挙げられます。
参考までに、近年の療養費総額の推移(資格別)、及び国民医療費全体の額は以下のようになっています(カッコ内は平成21年との比較)。
<柔道整復療養費>
平成21年…4,023億円、平成27年…3,789億円(94.2%)
<はり・きゅう療養費>
平成21年…293億円、平成27年…394億円(134.5%)
<あん摩マッサージ指圧療養費>
平成21年…459億円、平成27年…700億円(152.5%)
<国民医療費>
平成21年…360,067億円、平成27年…423,644億円(117.7%)
上記の通りあん摩マッサージ指圧の療養費の支給総額は最も上昇率が高く、鍼灸も高い上昇率となっています。
この中であはき療養費の不正請求問題が指摘されており、近年では保険請求に対する規則などの厳格化に対する動きがあります。
平成30年度からは、あはき業界にも受領委任制度が導入されました。今後もこういった流れは続いていくものと思われます。
こういった状況をふまえ、保険診療に頼るのではなく、自費診療を取り入れていくことが施術所経営のポイントになってくるという意見が交わされています。
ここで一旦、あん摩マッサージ指圧の施術所における保険適用内容を整理してみましょう
■保険が適用できるもの
厚生労働省からの通知では、あん摩マッサージ指圧の施術に係る保険の適用範囲が以下のように定められています(※一部を抜粋)。
<あん摩マッサージ指圧の療養費受給要件>
保険医療機関内で理学療法の一環として行われた場合に現物給付(療養の給付)の対象としているほか、以下のとおり医師の同意の下に保険医療機関外(施術所)で行われた場合にも療養費払いの対象としている。
(対象疾病)主として、筋麻痺、関節拘縮等に対するもの。
(医師の同意)療養費の請求には、医師の同意が必要。往療を行われた場合は、別途往療の必要性に関する医師の同意が必要。
上記のように、「筋麻痺」、「関節拘縮」などに対して、医師の同意を受けたものであれば保険治療が可能とされています。
■自費診療のメリット
上記の、保険適用となるもの以外は、全て自費診療の施術となります。
代表的なものとしては、リラクゼーションを目的とするマッサージや、予防医学的側面を持つもの、審美的な目的を持つもの、などです。
自費診療は、金額や内容が自由に設定でき、レセプト業務も発生しないため、独自のメニューを作ることができる、人的コストを抑えられる、入金が遅れることがない、といった強みがあります。
また、患者側にとっても、患部以外の部位に対する包括的な施術が受けられる、施術内容を自分の好みでリクエストできる、といったメリットがあります。
ただし、自費診療に特化した経営は、容易ではありません。
導入事例などの調査を入念に行った上で、綿密な経営計画を立て、自費へ移行後も独自性を確立する、PR戦略を行う、といった努力を続けていくことが必要になります。
■付随サービスについて
施術メニューを広げるには、リラクゼーション、疲労回復、あるいは美容のためのマッサージなどを取り入れるのが一般的です。
他にも、民間資格などを取得し、リフレクソロジーやフェイシャルマッサージといった付随メニューを導入している施術所もあります。
但し、このようなメニューは、その他の整体院やエステサロン、リラクゼーションサロンなどで提供しているサービスと競合することになります。
整体院やサロンなどの施設は、「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」(あはき法)の規制を受けないため、PRも比較的自由に行うことができます。
■集客のためのPRが重要
自院への集客は、施術所の経営において重要事項であり、とりわけ自費診療においてはPRが欠かせません。
しかし、施術所が広告できる内容は、あはき法によって規制されています。以下のようなものです。
<あはき法 第七条より広告の制限部分を抜粋、編集>
あん摩業、マッサージ業、指圧業、はり業もしくはきゅう業又はこれらの施術所に関しては、何人も、いかなる方法によるを問わず、下に掲げる事項以外の事項について、広告をしてはならない。
1.施術者である旨並びに施術者の氏名及び住所
2.第一条に規定する業務の種類
3.施術所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項
4.施術日又は施術時間
5.その他厚生労働大臣が指定する事項
第1号~第3号に掲げる事項について広告をする場合にも、その内容は、施術者の技能、施術方法又は経歴に関する事項にわたってはならない。
この規定に違反すると処罰の対象となります。
近年は規制が厳格化する傾向にあり、法の範囲内で、自院のサービス内容を周知することが大切です。
■広告媒体の種類
施術所の広告に利用できる手段は、主に以下のようなものがあります。
<Webページ>
手軽に始めることができる媒体です。低コストで、かつ比較的短い準備期間でスタートすることができます。
独自のWebページを立ち上げる、ブログ広告を出す、SNSで情報発信するなど、様々な手法があります。
Webデザイン会社などに依頼すると、立ち上げの手間も軽減できます。
<チラシ>
定番の広告手段ですが、今でも一定のPR力を持っています。
折り込み、ポスティング、配布などの手段があります。
印刷費がかかりますが、ネットの印刷会社などは小ロットにも対応しており、単価を抑えられるなどメリットも多く、人気が高まっています。
<フライヤー>
院内に設置する印刷物であれば、「告知物」とみなされるため、自費診療メニューの内容や料金、付随サービスなども記載することができます。
サイズを小さく収めたフライヤーであれば患者も持ち帰りやすく、掲載内容も必要充分なものになります。
<雑誌・フリーペーパー>
広告、または記事の体裁を取った記事広告という形で、雑誌やフリーペーパーに掲載することも可能です。ただし媒体によっては掲載料が高額なものもあります。
また、紙媒体への掲載も法の規制を受ける上、版元の掲載規定もあるので、どの程度までの内容が掲載可能なのか、事前に確認する必要があります。
<地域の配布物>
自治体などが発行している公共の配布物に名刺広告を掲載するという方法もあります。
市町村区の広報誌、地域のエリアマップ、防災マップなどに協賛企業として広告を入れるもので、各戸に配布されるため、相応のPR効果があります。
こういった中から最適な方法を選び、効果的なPRを続けることが大切です。
さらに、自費診療のセミナーに参加する、専門家やコンサルタントに相談する、異業種との交流を図るなど、学びの機会を設けて新しい手法を取り入れながら、業界全体の動向も予測し、適応していくことが重要です。